準委任契約の制約
正社員の個人事業主化
最近、正社員を個人事業主へ促す制度を導入している企業が増えつつあります。
タニタや電通など、ニュースで見かける企業名は大企業は多いですが、おそらく中小企業やベンチャー企業でも導入は進んでいるのでしょう。
フリーランスとして独立する方法として、慣れ親しんだ会社の中で正社員から個人事業主となることは、良いやり方だと思います。
条件次第ですが、多少なりとも収入は上がりますし、コミュニケーション上の問題も少ないでしょう。
最初から顧客がいるので営業の手間も省けます。
一方で、デメリットもあります。
メディアでよく見かけるのは、継続的な仕事の有無・不安定な収入、会計・税金に関わる手間暇など。
気になるのは、その中に、契約面での問題を取り扱ったものが少ないことです。
正社員から個人事業主になる場合、契約の内容は雇用契約から準委任契約になります。
正社員や派遣社員は労働法で雇用が手厚く保護されていますが、準委任契約にはそれらがありません。
その反面、依頼可能な作業内容には、様々な制約が伴います。
私自身の経験上、契約の違いによる制約を理解していた方はごく僅かでした。
たまに理解していると思える方と仕事をすることがありましたが、その方はフリーランス経験者でした。
あとは、発注を行っているマネージャーの一部の方達ですね。
契約の知識がない方と仕事をすることになると、気が抜けません。
フリーランスに依頼できない作業
フリーランスのエンジニアに関して言えば、具体的には以下のような項目に関しては、対応する必要がありません。
- 社内行事への強制参加
- 社員の教育(実質的な OJT を含む)
- HR・広報
個別に見ていきましょう。
社内行事への強制参加
業務と関係のない社内行事に関しては、参加する必要はありません。
例えば、全社的な朝礼や集会、納会、忘年会、初詣、社員旅行、社内勉強会・ハッカソンなど。
これらはたいてい業務とは関係ありませんから、顧客は基本的に強制することはできません。
社員の教育
取引先の社員や他のフリーランスの方の教育なども行う必要はありません。
同じプロジェクトチームに知識・経験不足で足を引張っている方がいても、それは業務に含まれません。
もしそういった作業が発生するのであれば、 最初から契約書に反映してもらい、契約単価もそれを踏まえたものに変更していただいた方が良いでしょう。
そもそも発注した企業は、フリーランスに開発時の仕事の速さ・品質を期待しているでしょうから、社員の教育に時間を割いてそれらがおろそかになることは望んでいないと思います。
HR・広報
社内行事と同じです。採用のための写真撮影やインタビュー、 記事の執筆には対応する必要がありません。
契約形態の違い
そもそも取引先は、仕事の指揮・命令をフリーランスの方に行うことができません。
これは基本契約・個別契約ではなく準委任契約に触れる問題で、顧客がそういった行為を行えば、準委任契約ではなく雇用契約とみなされます。
作業を依頼されても、それを受けるか選択する自由がフリーランス側にはあります。
例えば、徹夜や24時間勤務・土日作業、電話・メールやチャットの24時間対応。
このような強制や命令は、断っても構いません。
フリーランスになったら、顧客から深夜や土日に連絡があってもすぐに対応すべきだという意見もあり、確かにそういう心構えはしておいた方が良いでしょう。
しかし、自分の生命や心身の健康を失うことになりそうであれば、拒否した方が良いです。
その結果、契約を終了・解除されたとしても、死んだり病気で働けなくなるよりはまだマシです。
また、断らなければなんでも引き受けてくれる都合のよい人として扱われるでしょうし、このようなことをすれば取引先は偽装準委任の嫌疑がかけられるので、いつか問題になると思います。
引き受けることもできますが、その場合は、自分にメリットがあるかよくよく考えた上で、対応した方が良いでしょう。
ちなみに私の経験上、契約上できないことを断っている方の方が、短期で契約終了を希望せず、結果として契約期間が長くなります。
ストレスが少ないためだと思いますが、お互いメリットがあるので、良好な関係を築いているように見えました。
契約に関する知識の有無
これも私の経験上の話となりますが、契約の違いについて理解している方はごく僅かでした。
上場企業の役員ですら、CTO や VPoE ですら、わからない方はいます。
そして、経営者や管理職がそういったことに疎ければ、社員もよく理解していません。
中小企業・零細企業に関しては、言わずもがな。
コンプライアンス研修を行なっている企業でも、その内容はセキュリティに関するもので、契約の内容に触れているものはなかなか見かけません。
ただ、理解している方もいて、その方達と仕事をしている時は、部下の社員が法に触れるようなことをすれば、些細なことでも止めに来ました。
まとめ
私は、社員の個人事業主化に関しては、肯定的に受け止めています。
しかし、それがどこでもできるとは思いません。
少なくとも、契約や作業の内容でトラブルにならないよう、発注先との契約に関する教育は必要と考えます。
それができない企業であれば、社員の個人事業主化はしない方が良いでしょうし、提案される側も安易に乗らない方が良いのではないかと思います。
大手がそのような制度を導入したからといって、安易に導入できるわけではありません。
なお、依頼の可否に関しては概ね合っていると思いますが、基本・個別契約の内容や法改正で変わることもありますから、気になる方はご自身で確認してください。
余談
このような準委任契約の制約を回避するために、フリーランスのエンジニアへ契約社員としての契約を依頼したり、業務委託契約と雇用契約の両方を依頼する企業が存在します。
こうした行為が不正かどうか分かりませんが、自分にもメリットがあるのか、よくよく考えた方が良いと思います。